本日射手座12位です。

 

 目の敵ほど憎まれてはいないのが逆に非常に厄介だ、そのおかしな髪の色をいい加減どうにかせんかと、担任でもなければ今年度は学年担当ですらない熱意溢れる暑っ苦しい体育教師に追い回されるようになって早ひと月、疲労を通り越して飽きてきた。と、真田のいないのをいいことにものすごく適当にボールを追いながら、案の定初心者だってそうありえない空振りをしながら、「やる気があるんですか仁王くん」「ないぜよ」とか一触即発のギスギスした会話をパートナーと交わしながら、仁王は思った。
 端のコートで丸井を相手になんだか半ギレ気味にラリーの練習中の切原の言葉を借りれば、仁王の頭は
『不吉っスね……』
 だそうだ。
「失礼なやっちゃ、全国のお年寄りに土下座しりゃあ」
「なんです?」
「生きとりゃあそんうち誰でも平等に白うなるがよ。だけん白いのつかまえて不」
「寝言は寝て言いたまえ」
 容赦ない物言いとともに仁王の鼻先で柳生のラケットがびゅんと唸って、相手コートでは予想外のレーザービームでの返球を、ひい! と悲鳴をあげて同級の部員がよけている。
 いまんはわしの球じゃあ、と抗議をすれば一瞥もなく無視された。紳士が聞いて呆れる。
 そもそも切原がなぜ仁王の髪色を不吉だと言うのか仁王にはわからない。あのもじゃっ子はひと睨みくれればアホほど怯えて生まれたての子鹿のようにプルプルと柳のうしろに隠れたりするくせに、いつも余計な口をきく。
『無駄に赤也に構うんじゃない、仁王』
『こんガキがわしの自慢のキューチクルヘヤーを不吉ゥ言いよったき。理由ばはっきりさせんと』
『髪ではなくおまえの存在自体が不吉だということなんじゃないのか』
 迷いなく無表情に柳がそう言い放ったとき、赤也はすでに彼の背後から駆け出して脱兎のごとく練習場の彼方だった。
『へこんだぜよ……』
『なぜ』 
 真顔で問う参謀のおそろしさを知った早春、ほろ苦い思い出。
 などと仁王が感傷にひたっているあいだにも柳生はひとりですべての球を打ち返し、その美しい精密さと衰えない威力と息ひとつ乱れない余裕とが、彼の脱紳士メーターの針が確実にマックスに迫っていることを示していたので、仁王も慌ててラケットを構え直してポジションにつく。
「のう柳生、わしの髪ん色どう思う」
「自然の理に反していますね」
 話しかけるなと言わんばかり、柳生はまったく仁王を見ない。
「そげんこと気にしちょるわし、どう思う?」
「うざい、ですね」
 あるまじき簡潔な返答とともに、紳士はふたたびレーザービームを放つのだった。

 

 2007.9.22
 ×