とても不得手なご様子で!
三年生になってからの慈郎の生活は平和。教室で過ごす日中は特に平和。
なぜなら跡部と別々のクラスになったからです! 遅刻しても居眠っても目が覚めたら教室にひとりぼっちで移動しそびれてても誰にも叱られないんですスバラシイ!
慈郎のそんなスバラシイ生活をたまに宍戸が壊そうとするけれど、「ジロー次美術室だぞ起きろー起こしたからなーじゃーな先いくぞー」、彼にはジロー係なんてもともとやる気がないし慈郎の出欠や成績もどうでもいいのですぐに置いてけぼってくれる。そのくらい薄情なほうが慈郎にはありがたい、ていうかそれが普通だよね。人の出席日数やテストの点数あんだけ気にする跡部がおかしいよね? でももー関係ねーし!
解放感たっぷりに、今日も慈郎はぐうぐう眠る。何度か頭上で宍戸の声がしていた気がするけれど明確な言葉として捉えることはできなかったしその気もなくて眠り続けて、昼休みにいったん起きて宍戸と向日と滝といっしょに屋上で弁当を食べて教室に戻って席に着いてまた一秒で寝た。
登校してからほぼすべての時間を机にうつぶせて過ごしていたせいでいい加減ちょっと腰と背中が痛い、とわずかばかり浮上した意識の片隅でぼんやり考えていたとき、ばっしーと後頭部に衝撃がきた。叩かれた後頭部より弾みで机に打ちつけた額のほうが痛い。
うぐ、と唸ってけれど顔はあげず、あー出たよ出ましたよ、と慈郎は思いきり眉をひそめる。すぐそばに人の、いや確実に跡部景吾の気配が立っている。教室内にクラスメートたちの喧騒が感じられないし、つまりもう放課後なのだろう。部活に連行されるお時間ですよー部長じきじきのお迎えでね!
「びっぷたいぐう……」
もぐもぐと口の中でジロー語による抗議を唱えてみると案の定、あーん? と不審げな声がふってきた。
「さっさと起きろ、殴るぞ」
もう殴ったくせにそう宣う跡部を図々しいなあと思いながら、慈郎は跡部から顔を背けて机に伏せたまま片腕で頭をかばう。だってきっとまた叩かれる。
「もっとやさしくしてくれればすぐ起きるのに」
「厚かましいんだよてめえ」
あっぶたれる、と慈郎は頭をかばう腕に力を込めて肩を縮めたけれど、予期した乱暴な手は訪れなかった。かわりに一瞬の静寂のあと、あたたかくてやわらかい感触が羽毛みたいにやさしく手の甲に触れて、すぐに離れた。
慈郎はガバと顔をあげる。不愉快そうに眉を寄せて見おろしてくる跡部がそこにいる。
「いまちゅーした!?」
「寝言は寝て抜かせ」
うそだ。絶対にした。慈郎は跡部の腰にすがりつく。
「もっかい! もっかいお願いします!」
「黙れアホ。さっさと部活いく支度しろ」
「してくんねーとはなさねーし部活も出ねえ」
慈郎は上目使いに跡部をにらみ、まったく立場をわきまえず図太く脅し文句を吐く。途端におそろしい力でシャツの両襟をつかみあげられて、抵抗する間もなく無理やり立たされた。まじめに首が絞まりかけ、オメエやんのかと慈郎はマッハで狂犬みたいな目になって跡部の腕をつかんだ、ら、その顔が目の前数センチの距離に迫っていた。
そのまま乱暴に引き寄せられて唇、ではなくもはや歯。ガッツンと半端なく歯がぶつかってすぐさまお互いつかみ合っていたのを突き飛ばすように解放し、口を押さえつつ二人声をそろえて怒鳴る。
「「痛えよ!!」」
跡部のへたくそ!
2008.4.10
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