おお振り他校短文ログ
※日記からの再録です。タイトルにオンマウスで登場人物表示。
待てど暮らせど
待てど暮らせど
榛名と秋丸/07.10.27
タカヤの気持ちがわかる、と秋丸が言った。なんだそりゃ。
「おまえもオレがサイテーと思うのかよ」
「んなことは思わないけど。性格と足癖は悪いよな」
榛名は無言のままシューズの底でガンと秋丸を蹴った。ほら! ほらすぐ蹴る! と勝ち誇ったように指差してくるのをいまスパイク履いてりゃよかったなオレ、と苦々しく鬼のように舌打ちして無視し、グラウンドの隅、ベンチに置いた自分の携帯に目を凝らす。
とても久しぶりに阿部隆也にメールを送ってから、三時間がたっていた。返事はこない。
「榛名? 練習中にケータイなんか気にしてっと」
秋丸が言いかけたところで、おーし水入れ! と大河の声が飛んだ。榛名はベンチに走り、携帯を取り上げる。受信メールなし。
(あのヤロ)
乱暴にベンチに腰を下ろして携帯を閉じたりひらいたりしていると、どしたの、と秋丸が寄ってきた。
「返事よこさねんだよ」
「誰が」
「タカヤ」
阿部は必要最低限のことしかメールに書かないので文面は短く大概味も素っ気もないが、そのぶん返信は早いタイプだ。ただし、ソッコー一分で『はい』とか『そうですね』とか返ってくるとそれはそれでムカツク。
「あっちだってまだ部活中だろ。なに、急ぐ用なわけ?」
「そーじゃねェけど」
秋丸が隠す様子なく興味津々の顔をするので、榛名は面倒になって送ったメールをそのまま見せた。
件名:てめーアホ
本文:待っとけっつっただろアホ
読むまでもなく一秒でその文面を「見た」秋丸は、困り果てたような哀れむような笑いをこらえているような、なんともいえない変な顔をした。なんだその薄目は。
「んだよ」
「いや。賭けてもいいけど、いつまで待っても返事こないよそれ」
「なんでだよ!」
秋丸が断言する根拠がわからない。榛名が不満をあらわにすると、秋丸は今度こそはっきりとかわいそうなものを見る目になった。不愉快だぞてめえ。
「ちょっとこれ借りていい?」
「……いいけど。な」
んで、と榛名が言い終わらないうちに、秋丸は榛名の携帯を持って、ほかのベンチのそばでジャグタンクを囲んでいる部員とマネージャーたちのところへ走っていった。みんなして榛名の携帯を覗き込んで何やら小声でごにょごにょもしょもしょやりながら、かわるがわる榛名のほうに視線を寄越す。なんでみんな薄目なんスか。
そして二分とせずに戻ってきた秋丸がひとこと。
「満場一致で、返事はきませーん」
だからなんでだよ!
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